月曜の朝いちばんの一発目だけ、塗布量が足りない。
金曜の夕方までは何ごともなく出ていたのに、週明けだけ抜ける。
生産技術をやっていた頃、この現象に何度泣かされたか分かりません。
変えていないつもりの条件のほうが、勝手に動いていたわけです。
はじめまして、桑原亮介と申します。
電子部品メーカーの生産技術に18年、自動車部品メーカーの製造技術課に6年いました。
いまは独立して、中小の製造現場で塗布・注入工程の改善を手伝っています。
塗布量が安定しない原因を、設定パラメータではなく、もう一段手前の「計量の考え方」から整理します。
目次
塗布量がバラつく本当の理由は「量を測っていない」こと
現場で最も普及しているエア式のディスペンサは、時間圧力方式と呼ばれます。
シリンジに一定の圧力を、一定の時間かける。
それだけです。
この方式は体積を測っていません。
圧力と時間から量を推定しているだけで、実際に何ミリリットル出たかを装置は知らない。
- 液の粘度が変われば、同じ圧力・同じ時間でも出る量が変わる
- 残量が減ると空気の容積が増え、圧力の立ち上がりが鈍って吐出量が落ちる
- 空気は圧縮性の流体なので、応答が液体ほど素直ではない
冒頭の「月曜の朝だけ抜ける」も、土日で建屋の温度が下がっていただけでした。
現場ではたいてい、作業者が吐出時間を伸ばして帳尻を合わせます。
あれは原因を潰したのではなく、ズレを人力で追いかけているだけです。
粘度という数字は、思っているほど安定していない
もうひとつの落とし穴は、粘度を固定値だと思うことです。
接着剤やシール材、グリス、高フィラー入りの樹脂は、そのほとんどが非ニュートン流体です。
せん断速度、つまりどれだけ激しくかき混ぜられたかで粘度が変わります。
静置すると硬く、動かすと柔らかくなるチキソトロピー性の材料も珍しくありません。
温度でも変わる。
測る方法によっても値が変わる。
JIS Z 8803:2011「液体の粘度測定方法」がわざわざ測定方法を規格化しているのは、裏を返せば、測り方を揃えないと比較すらできない量だからです。
ちなみに、接着剤の試験方法を定めたJIS K 6833-1:2008では、塗布量そのものもg/m²という単位で算出方法まで規定されています。
カタログの「粘度50,000mPa·s」は、ある条件で測った一点の値でしかありません。
その一点を前提に、圧力と時間で量を推定する。
バラつくのが当たり前だと思いませんか。
容積計量は「体積そのもの」を切り出している
分かりやすいのはプランジャ式で、シリンダの中をプランジャが決められた距離だけ動き、その掃引体積分の液を押し出します。
理論上の吐出量は、断面積×ストローク。
それだけで決まります。
粘度が上がっても、押し出し圧力が上がるだけで、切り出される体積は変わりません。
量を推定するのではなく、機械的に確定させている。
ここが決定的な違いです。
| 方式 | 量の決まり方 | 粘度変動の影響 |
|---|---|---|
| 時間圧力方式(エア式) | 圧力×時間からの推定 | 直接受ける |
| スクリュー式 | 回転数×1回転あたりの送り量 | 滑りの分だけ受ける |
| プランジャ式(容積計量) | 断面積×ストローク | 原理上受けにくい |
もちろん万能ではありません。
装置は重く、価格もエア式とは桁が違います。
フィラー入りの材料では、摺動部の摩耗との付き合いも出ます。
高粘度になるほど、方式の差は開く
粘度が上がるほど圧力損失が大きくなり、エア式では設定圧力をかけても液が素直に出ません。
私も昔、粘度が数十万mPa·sある放熱グリスをエア式で押そうとして丸一日を溶かしました。
たとえば、高粘度・高フィラー入り材料の塗布に対応したプランジャポンプ式ディスペンサであるナカリキッドコントロールのP-FLOWシリーズHタイプは、ポンプ内の耐圧を19.6MPaまで高めることで、使用可能粘度の上限を1,050,000mPa·sとしています。
吐出量範囲は0.4〜7.5ml/shot、計量方式はΦ10mmプランジャによる容積計量です。
まとめ
塗布量が安定しない現場に呼ばれると、話はたいてい設定パラメータから始まります。
その前に確認してほしいことが3つ。
- その装置は、量を測っていますか。それとも推定していますか
- 使っている材料の粘度は、温度やせん断で動く前提になっていますか
- 作業者が日々の調整で吸収している分は、どのくらいありますか
3つ目に心当たりがあるなら、設定ではなく方式の問題です。
材料側から攻める道もあります。
接着の技術的な背景は日本接着学会などが扱っています。
正直、私はエア式を否定する気はありません。
低粘度で要求精度が厳しくない工程なら、あれほど手軽な方式もない。
ただ、粘度が上がってきたときに設定でごまかし続けるのは、そろそろやめたほうがいいと思っています。
最終更新日 2026年9月4日 by iccimm

